【リスク管理】交通事故を減らす「ISO39001」って何?

Q 近年、社員の起こす交通事故トラブルの増加に悩んでいます。道路交通安全マネジメントシステム(ISO39001)という国際規格が普及しつつあると聞きましたが、当社のような中小企業でも導入できるのでしょうか。(運送業)

<回答者>JQA 日本品質保証機構
審査事業センター
品質審査部長 江波戸啓之 

A 現在、交通事故によって世界で年間130万人が亡くなり、負傷者数は5000万人に上っています。また、数年後には、発展途上国における子どもの死亡原因の1位になるとの予測もあります。先進国では、横ばいか漸減傾向ですが、利便性追求の見返りとしての交通事故はやむを得ないという諦めムードも感じます。

 そんななか、スウェーデンでは、1990年代から交通死亡者数ゼロの目標を掲げ、取り締まりの厳罰化や交通安全意識の徹底、インフラ・装置の整備など、官民一体となって交通安全に向けた活動を行ってきました。その結果、年間の交通事故死を300人台、子どもの死者に至ってはほぼゼロにすることができたのです。このような成果を上げたスウェーデンの提案によって2012年に国際規格として発効されたのがISO 39001であり、2020年までに全世界で10万件の認証を目指しています。

 国連の「道路交通安全10カ年行動計画」のなかにも取り入れられたこのISO 39001は、車社会の進展著しい日本にもいち早く上陸しました。業種や企業規模を問わず、現在、すでに約50社が導入しています。規格の具体的な内容については『ISO 39001:2012 道路交通安全マネジメントシステム 日本語版と解説』(日本規格協会)等の解説書を参照していただくとして、ここではこの規格の思想的キーワードを二つ挙げておきます。

 一つ目は「総合的な安全システムアプローチ」という概念。「人」「車両・装置」「法規制等」「道路・駐車場」といった交通に関わる要素に横串を通し、全体的な取り組みとして事故ゼロを目指します。

 二つ目は「共有責任」です。これは、道路交通システムを使用して活動している組織・従業員は、道路交通安全の責任を共有しているという考え方です。運送会社、自動車メーカー、駐車場管理者のみならず、流通業やサービス業などあらゆる業種の会社、あるいは医療機関、自治体なども含めて責任を共有し、社会全体として安全を担保していこうというものです。

事故率が半分以下に

 では、導入の効果はどのようなものなのでしょうか。

 直接的には、事故件数が半分以下になった組織もあり、なにより営業中の事故による組織のイメージ毀損リスクが減少します。もちろん、それにともなって自動車等の修理コストも大きく減少するでしょう。対外的な面では、まだ導入事例の少ない国際規格の導入によって社会からの信頼とパイオニア的イメージを獲得できます。また、組織としての透明性も証明され、営業活動に有利に働くようになります。社員の意識改革による社内体制の強化という意味でも効力を発揮するでしょう。

 「中小企業には敷居が高いのでは」と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。実際、日本で導入済みの約50社の半分以上は中小企業です。審査にかかるコストもISO9001に比べると平均すれば7割程度。導入には民間のコンサルタント会社を活用する方が確実ですが、前記の書籍などを利用して自力で導入することも不可能ではありません。

 興味のある方は日本品質保証機構のISO認証ページを覗いてみてください。

 提供:株式会社TKC(2014年4月) 

(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。