障害者雇用促進法の改正

Q 改正障害者雇用促進法が4月に施行されたそうですが、障害者を雇用する上で事業者として配慮すべきポイントを教えてください。(食品製造業)

<回答者>社会保険労務士 原田政昇 

A 2014年1月、日本は国連採択の障害者権利条約の140カ国目の批准国になりました。今回の改正では、その具体的な対応策が盛り込まれており、すべての事業主が対象とされています。また、対象となる障害者は身体障害者、知的障害者、精神障害者(自閉症やアスペルガー症候群などの発達障害も含む)のほか、慢性疾患者や、高次脳機能障害者など障害者手帳を持っていない方も含まれます。

 改正のポイントは3点あります。まず「障害者差別の禁止」です。募集、採用から退職にいたる一連の場において、障害者を排除したり、不利な条件を付したり、障害者でない者を優先したりすることは禁止されます。障害者だからという理由で応募を拒否する、賞与を支払わない、昇進や教育訓練の対象から除く、食堂や休憩室を利用させない、労働契約を更新しないといったことです。差別を是正するために障害者に有利になるように扱ったり、労働能力等に基づく適正な評価を理由として異なる取り扱いをすることは差別に当てはまりません。

「合理的配慮の提供義務」が2点目です。事業者は実施できる範囲で障害者に配慮した働きやすい環境を整備する必要があります。具体的には、採用面接時には視覚障害者に労働条件を読み上げる、聴覚障害者には手話のできる社員を同席させるといったことです。職場では、ろうあ者とのコミュニケーションに筆談を利用する、移動負担を軽減するため通路などに不必要なものを置かない、業務指導や相談に関する担当者を置く、車いすでも使用できるよう高さ調整可能な机を用意する等の配慮が挙げられます。また、交通機関が混雑する時間帯を避けて出勤してもらう、通院や体調にも配慮し短時間勤務を認めるなどの施策も必要となるでしょう。

就労支援機器の活用を

 具体的にどのような措置をとるかは、障害者と事業主が話し合いを行い、お互いを理解し提供することが大切です。ただし、その措置が事業主にとって過重な負担となる場合は、合理的配慮を提供する義務はありません。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、文字読み上げソフトなどの就労支援機器を原則6カ月間、無料で貸し出しています。同機構のホームページでは障害の種類別に機器を写真や動画でわかりやすく紹介しています。障害者差別の禁止・合理的配慮の提供義務違反に対する罰則規定は設けられていませんが、厚生労働大臣は事業主に対して助言、指導または勧告することができます。

 最後のポイントは「相談体制の整備、苦情処理・紛争解決の援助」です。事業主は障害者の相談に対応するための窓口などを整備しなければなりません。ハローワークには障害者差別の禁止・合理的配慮の提供義務に関する窓口として専門援助部門が設置されているので活用を検討してみてください。また、話し合いによる自主的な解決が難しい場合には、都道府県労働局長が必要な助言等を行うことができ、第三者による調停を行わせることもできます。

 一人ひとりの小さな心づかいで、障害者が安心して働ける職場環境を築いていきたいものです。

提供:株式会社TKC(2016年5月)

(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。

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