従業員の副業に関するルールづくり

Q 就業時間外に、ウェブサイトへの動画投稿や中古品の売買で収入を得ている社員がいます。副業に関するルールはどのように決めるべきでしょうか。(清酒製造業)

<回答者>横浜綜合法律事務所 弁護士 楠瀬健太

A 近年では働き方改革の一環として、厚生労働省が労働者の自由なキャリア形成や自己実現の追求などを目的に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を策定するなど、「副業」への注目度が高まっています。経営者は従業員の副業に対して、どのようなスタンスで臨むべきでしょうか。

 そもそも副業は法律上に規定される文言ではなく、また従業員の副業が法律により規制されているわけでもありません。従業員が労働時間外に何をするかは、基本的に本人の自由であるため、副業についても従業員の自由であるということが、原則的な考え方です。したがって、企業側はできるかぎり従業員の副業を尊重すべきであり、仮に副業を一切禁止する規則を設けても、そうした取り決めは無効となるでしょう。

 しかしながら経営者が、従業員の副業により本来の業務に支障をきたすのは避けたいと考えるのは当然のことです。そこで、多くの企業は就業規則等において「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」等、副業について会社の許可を求める規制を行っており、同様の規則は、厚生労働省が2017年12月に示した「モデル就業規則」にも規定されています。

 この規則は一般的なルールとして広く使用されており、裁判所の判決などからも、基本的に有効であると考えられています。したがって、副業は無制限に行えるものではなく、本業との兼ね合いにおいて、制限を課すことも可能といえます。

念頭におくべき3点

 裁判において、会社による副業の禁止の適否が争われた2つの事例を紹介します。

〈副業としてキャバレーで働いていた従業員を解雇した事例〉
 副業禁止規定のある建設会社の事務員が、会社に無断で就業時間後の18時から24時までの間、キャバレーの会計係として勤務を行っていた事案において、勤務先の建設会社はこの事務員を懲戒解雇しました。

 裁判所は、副業禁止規定がある以上、
○会社に対して、具体的な職務内容を告知して承諾を求めることなく、二重就職したこと自体が企業秩序を害する行為といえること
○キャバレーでの仕事が毎日6時間、深夜にわたっておこなわれるもので建設会社での勤務に支障をきたすおそれがあること
 等を理由に、懲戒解雇を適当な処分であると判断しました。

〈勤務会社が副業を認めなかったことが不適法と判断された事例〉
 運送会社において、長距離運転手として働く従業員から出された副業の許可申請を承認しなかったことについて、副業を許したとしても、その従業員の実労働時間が運送会社の定める副業許可のための労働時間基準を上回るとして、副業を許可しなかったことを不適法と判断しました。

 副業の許可について争われた他の判例も考慮すると、会社が副業を許可すべきかどうかについては、次の3つのポイントに着目して判断すべきです。

①副業が本業に支障をきたすか(労働時間数、労働の時間帯など)
②副業の内容が企業秩序を害するものか
③副業先と本業が競業関係にあるか

 最近ではソーシャルメディアなどを活用して仕事を容易に探すことができるため、特定の業務に専業する雇用形態は今後減少していく可能性があります。企業側は、副業を通して従業員が経験値やノウハウを得られるというプラス面も考慮した上で、副業を有効活用できる体制を整えていくことも一案かもしれません。

提供:株式会社TKC(2019年4月)

(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。 

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