フリーランスと適切な業務契約を結ぶには

Q フリーランスの個人に仕事を依頼しようと考えていますが、発注に際して注意すべき点を教えてください。(広告制作業)

<回答者>明倫国際法律事務所 弁護士 柏田剛介

A 近年、従来型の雇用関係とは異なる新しい働き方のひとつとして、企業と労働契約を結ばずに働くIT技術者、ライター、デザイナーといったフリーランスが注目され、政府もフリーランスの活躍を後押ししています。しかしながら、フリーランスとして働く人々は立場が弱く、不公平な取引をしいられるケースが多かったにもかかわらず、保護するための制度が十分に整備されているとはいえませんでした。

 そのような状況にあって、今年の2月、公正取引委員会は「人材と競争政策に関する検討会」報告書(以下、本報告書)を公表し、報告書で示された考え方を、独占禁止法の今後の運用指針とすることを明らかにしています。

問題となる行為と対策

 本報告書において、独占禁止法違反とされている主な行為と、違反を回避するための対応策について具体的に述べていきます。

●秘密保持義務・競業避止義務・専属義務
 フリーランスとの取引に際し、発注者が秘密保持義務(技術や顧客情報といった営業秘密などを漏えいしない義務)、競業避止義務(発注者と競合する者に対してサービスを提供してはならないとする義務)、専属義務(発注者とだけ取引をしなければならないとする義務)を課す場合があります。この場合、発注者がその内容について実際と異なる説明をし、またはあらかじめ十分に明らかにしないままフリーランスにこうした義務を受け入れさせるなどの行為は、独占禁止法違反となりえます。発注側は、これらの義務を課す場合には取引開始時に、十分に協議した上で取引基本契約書などの書面を取り交わし、義務の内容を明記しておくと効果的です。

●成果物の利用制限
 フリーランスとの取引で生じる成果物について、発注者がフリーランスに対して以下の義務を課す場合は注意が必要です。

  1. 成果物の作成者としての表示を禁止する
  2. 成果物を転用して他の発注者に提供することを禁止する
  3. フリーランスの肖像等(芸能人の肖像など)を発注者が独占的に利用するのを許諾させる
  4. 著作権の帰属について事前になんら取り決めていないにもかかわらず、納品後や納品直前になって著作権を無償、または著しく低い対価で譲渡するよう求める
 これらの行為は、特定業界の慣行として従来行われてきた場合もありますが、仮にフリーランスがこのような義務を受け入れていたとしても、独占禁止法違反となりえます。発注側は、成果物の利用について1~4に該当する行為がないかを確認する必要があります。

●実態より優れた取引条件の提示
 発注者が、事実と異なる優れた取引条件を提示するなどしてフリーランスを誤認させ、取引することなどが独占禁止法上問題となりえるとしています。発注側は、こうしたトラブルを回避するため、取引条件を定めた基本契約書を双方十分了解のもと、締結しておくのがよいでしょう。

●その他発注者の収益の確保・向上を目的とする行為
 優越的地位の乱用の観点から、発注者による代金の支払い遅延、代金の減額要請等の行為についても、独占禁止法上問題となる場合があるとしています。フリーランスに一方的に不利な取引条件をしいることがないよう注意が必要です。
 このように本報告書では、問題となる行為が多岐にわたり取り上げられています。独占禁止法違反の行為は、多額の課徴金等のリスクがあります。フリーランスと取引する場合、本報告書の内容を十分に把握しておくことは必須といえます。

提供:株式会社TKC(2018年11月)

(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。 

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