70歳までの就業機会確保義務化への対応

Q 法改正で70歳までの雇用について定める内容が盛り込まれたと聞きました。概要と企業の対応について教えてください。(ビルメンテナンス業)

<回答者>社会保険労務士法人 大槻経営労務管理事務所 特定社会保険労務士 三戸礼子

A ご質問にある法改正とは「高年齢者雇用安定法」の改正のことで、2021年4月1日より施行されます。

 現行法では、企業は希望者全員を65歳まで雇うよう義務付けられていますが、今回の改正では、それをさらに5年延長して、70歳までの就業の機会を確保する努力を企業に義務付けています。

 改正の目的は、端的に言えば少子高齢化による人手不足の解消です。10年後の日本は、人口が約5%減少、労働力となる15歳から64歳の人口も約7%減少し、その先も減少傾向は続きます。

 一方、65歳以上の人口割合は増加傾向にあります。働く意思と能力のある高年齢者を労働市場に留めおき、そのニーズや状況に応じた活躍の場を整備し、働き手のパイを増やすことで経済社会の活力を維持していくのがこの改正法の趣旨です。当面は「努力義務」なので罰則規定等はありませんが、施行日時点で何ら対応がなされていないときは、行政による指導や助言の対象となる場合があるのでご注意ください。

 では、具体的に企業はどのような対応が求められるのでしょうか。国は「70歳までの就業の機会を確保」する方法として七つの選択肢(『戦略経営者』2020年12月号39頁図参照)を示しています。これら七つのうちから、高年齢者のニーズを尊重しつつ、労使の話し合いにより自社にマッチしたものを選択し、高年齢者が70歳まで働けるような環境整備に取り組まなければなりません。

雇用ではない新たな選択肢

 とはいえ、人件費負担が重くのしかかることになる企業としては、高年齢者にいかに長く戦力として活躍してもらえるかを考えながら取り組むことになるでしょう。選択肢の内容は、図(『戦略経営者』2020年12月号39頁)にある通り。①②③は現行の高年齢者雇用確保措置を70歳まで引き上げたものですが、ポイントは、それらに加えて④~⑦の雇用によらない新たな選択肢が設けられたことです。

 それら四つの選択肢の概要は次のとおりです。

④他の企業への再就職支援
  継続雇用先として関連会社等以外の他の企業も認めるというもの。
⑤業務委託契約
  フリーランスを希望する高年齢者と業務委託契約をすることで就業機会の支援を行うもの。
⑥起業支援
  起業を希望する高年齢者に対して企業が資金支援等を行うもの。
⑦社会貢献活動への参加支援
  企業が出資・援助をするNPO等の団体が行う社会貢献活動への参加に支援をすることで就業機会の確保を図るというもの。

 既に3割の企業が66歳以上まで働くことができる制度を導入していますが、その取り組み例はさまざまです。例えば、「継続雇用制度」と「業務委託契約締結制度」のうち本人が希望する方を選択できるといった、国が示す選択肢を複数組み合わせて自社にマッチするハイブリッドな制度を作り上げている企業もあります。

 社内の体制を整備するには時間を要します。間近に迫った法改正への対応について、早急に検討されることをお勧めします。

提供:株式会社TKC(2020年12月)

(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。 

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