信用補完制度見直しのポイントについて

Q 信用補完制度が改正されると聞きました。改正の概要と、中小企業の資金繰りに与える影響について教えてください。(不動産業)

<回答者>経済産業省 中小企業庁
事業環境部金融課 野草俊哉

A 信用補完制度は中小企業の資金繰りを支える重要な制度です。仮に資金調達を全て「市場任せ」にする場合、信用力に乏しい中小企業においては資金調達の円滑を欠く恐れがあり、また小規模な事業者が持続的発展を目指す場合や創業期・再生期といったリスクが高い局面等においては、必要十分な資金を調達することができず、事業の発展ひいては地域経済の活性化が進まない可能性があります。このため中小企業による業績向上に向けた自主的な努力を前提としつつ、信用補完制度を通じて必要十分な信用供与を果たすことが重要です。

 また、中小企業はその事業活動の中で経済危機や自然災害等といった予測できない危機に直面する場合があり、危機が去るまでの当分の間、安定して事業を継続するための運転資金や復旧資金が必要となります。他方、危機の影響により金融機関の流動性が低下し、または復旧の見通しが立たない状況の下で必要十分な資金の調達を行うことは困難です。このため政府が前面に立って迅速にセーフティーネットとしての信用補完を行うことが重要となります。

 他方、これらの信用補完については一定の規律を持って行わなければ、中小企業の経営改善意欲を後退させ、金融機関においては事業を評価した融資や経営支援の姿勢を後退させる恐れもあります。特に、危機時にはセーフティーネットとして「最後の砦」となりますが、これも政府の過度の支援となれば、市場ルールを歪(ゆが)め、構造改革を遅らせ、中長期的にかえって日本経済の足腰を弱めることになりかねません。

 こうした副作用を抑制しつつ中小企業の事業の発展を促し生産性向上や地方創生に寄与するため、平成27年11月以来、中小企業団体や金融機関団体と丁寧に意見交換を行いながら、中小企業政策審議会基本問題小委員会金融ワーキンググループにおいて信用補完制度の見直しについて検討が行われ、平成28年12月20日にとりまとめられました。そして、そのとりまとめの内容のうち法的手当てが必要な部分について、第193回通常国会に法案を提出し、平成29年6月7日に成立しています。

保証への過度な依存を抑える

 見直しのポイントは3点です。一つ目は、信用保証協会と金融機関のリスク分担を通じた中小企業の経営改善・生産性向上です。これは、金融機関による信用保証の付かない融資(プロパー融資)を確保することが、その中小企業に対する金融機関の積極的な支援姿勢に直結するという実態を踏まえて、金融機関のプロパー融資と保証付き融資を適切に組み合わせることで、金融機関の事業性評価による融資や、適切な期中管理・経営支援を確保しようというものです。中小企業においては自主的な経営向上に向けた努力を重ね、金融機関においては保証付き融資に過度に頼ることなく保証の付かないプロパー融資を一定の割合で実施してもらい、その状況を情報開示する「見える化」を行います。

 二つ目は、セーフティネット保証による副作用の抑制と大規模な経済危機等への備えです。信用補完制度は、経済危機や自然災害時などの危機時にその機能を発揮しますが、リーマンショック時においては100%保証であるセーフティネット保証5号(不況業種に属する中小企業への別枠100%保証)の対象を拡大する措置を長らく(約4年)実施したことなどにより、借入金の返済期日の延期など貸付条件の変更を行う企業が著しく増加し、その後も、金融機関から適切な支援を受けられず、条件変更を繰り返す企業の数が依然として高い水準となっている実態がありました。

 そのため、今般、大規模な経済危機等が発生した際に、あらかじめ適用期限を区切って迅速に発動できる危機関連保証を整備しました。一般保証とは別枠で融資額の100%を保証します。

 一方で、過度な支援になると、中小企業や金融機関の保証依存を招くという副作用を引き起こしてしまいます。そこで、既存のセーフティネット保証5号を、金融機関の支援の下で経営改善や事業転換等が促されるよう、金融機関にもリスクを分担してもらうべく、保証割合を100%から一律80%に改正します。

 三つ目は、創業期や小規模事業者向けの支援の拡充、事業承継・撤退時などの資金ニーズへのきめ細かな対応です。

 現状では創業者は手元資金・信用力に乏しい上に、過去の財務データ等がないため、十分な資金を調達できません。仮にある程度の資金を調達して創業したとしても、事業が軌道に乗り安定的な収入が得られるようになる前に運転資金が枯渇することも多くなっています。これらの実態を踏まえ、創業者に手元資金がなくても100%保証を受けられる限度額を1000万円から2000万円に拡充します。

保証協会等の相談体制も強化

 また小規模事業者は、資力に乏しい一方、差別化された商品・サービスの一点で市場を勝ち取っている場合も多く見られます。しかしたった一度の不良品の排出等で経営状況がたちまち急変するといったリスクを抱えていることから、小規模事業者向けの100%保証の限度額を1250万円から2000万円に拡充します。

 他にも、事業承継や撤退の際に必要な資金を円滑に調達できるよう保証メニューを充実させるなど、中小企業のライフステージに応じた資金繰り支援のバリエーションを増やしています。

 なお今回の見直しを進めるにあたっては、小規模事業者向けの100%保証の限度額の拡充、メインバンクが十分な融資を行えない場合の保証協会による他の金融機関の紹介、保証協会と中小企業支援機関の連携による相談体制の強化、さらに万一に備えて、日本政策金融公庫等による丁寧な相談など中小企業の資金繰りに大きく影響が生じない対応を併せて講じることとしています。また、関係省庁が緊密に連携して、中小企業の資金繰りの状況を含めて適切にモニタリングしながら新たな制度を施行することにより、円滑な資金繰りと中小企業の経営改善・生産性向上の促進の双方を両立していきたいと考えています。この見直しを通じて、危機の際には企業へのサポートを直ちに行える体制を整えつつ、金融機関には今まで以上に頑張ってもらうという、メリハリのある持続可能な信用補完制度にしていきます。

提供:株式会社TKC(2017年9月)

(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。 

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