工場における防火対策のあり方

Q 各地でメーカー工場の火災が相次いでいるように感じます。自社工場の防火体制を改めて点検した いと考えています。念頭に置くべきポイントを教えてください。(精密部品製造業)

<回答者>MS&ADインターリスク総研 工藤信介

A 総務省消防庁の消防統計(火災統計)によると、2015年から21年の建物火災全体の件数は、減少傾向を示していますが、「工場・作業場」の火災件数は、15年の1,598件から19年の1,803件まで、毎年増加しています。また、20年の「工場・作業場」の火災件数は、1,599件と前年から減少しましたが、21年は1,622件(概数)と増加しました。

 近年発生した工場火災は、社会に強いインパクトをもたらした点が特徴です。その理由として、①安全・防災活動に人材や費用を投じているとされる業種(半導体製造工場や物流倉庫、鉄鋼製造工場など)で、比較的大規模な火災が発生していること②火災事故による工場の操業中断が、サプライチェーンに広範な影響を与える事例が増えていることが挙げられます。

 工場火災の発生原因を単純化して述べるのは難しく、工場における防火対策として「火災の発生を防ぐこと」「火災発生時の損害拡大を防ぐこと」という2つの観点から整理、検討するのが有効です。

 火災発生を防ぐためには、火災の3要素である「酸素、可燃物、熱源」を念頭に置いて、溶接作業時の火花拡散防止などの熱源への対策や、溶接作業エリア周辺の可燃物の除去といった、可燃物と熱源の接触を防止する方法があります。また、製造工程で使用している引火性液体を、引火性の無いものに変更する等の可燃物対策も挙げられます。

 一方、火災発生時の損害拡大を防ぐ取り組みは、「火災を制御する」という考え方と、「火災発生時に損害をこうむる可能性のある財物や人の量の制御」という考え方から構成されます。火災を制御する方法としては、消火設備による初期消火や、引火性液体や可燃性ガスの緊急遮断といった、緊急時の可燃物の除去や、供給量の制御が挙げられます。

 火災発生時に損害を被る可能性のある財物や人の量の制御に関しては、延焼する可能性があるエリア内に保管する財物の量の抑制や自動火災報知設備による警報とその後の避難誘導に加え、防火対策が実施された避難経路を活用した人的損害の抑制等があります。

 具体的な対策としては、石油化学工業協会が「2021年度 産業保安に関する行動計画」で示している「リスクアセスメントの実施」や、自社および他社の事故事例を含む「事故情報の活用」が参考になります。

 火災は普段実施している定常作業時だけでなく、臨時的に行う非定常作業時でも発生するため、リスクアセスメントの対象に非定常作業を加えることは、有効な打ち手といえます。機械設備や製造工程などを変更した際のリスクアセスメントの実施も、工場内の火災リスクを把握するうえで有効です。

 工場火災防止に向けた防火活動では、「経営層の強い関与」が非常に重要です。企業や工場の現場担当者が安全対策を講じようとしても、予算や人的資源に制約が存在したり、安全よりも利益を優先するような企業風土が残っていたりする状況では、十分な対策を講じることは期待できません。

 トップが安全を最優先する姿勢を示すとともに、安全対策のための適切な予算配分や設備投資、人的資源の投入を実施することで、安全および防火活動を強力に推進していくことが求められます。

提供:株式会社TKC(2022年6月)

(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。 

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