<回答者>日本総合研究所 調査部 主任研究員 小方尚子
A 春季労使交渉(春闘)については、これに先立つ政府からの賃上げ要請が5年連続となり、恒例行事と化しつつあります。もっとも、2018年春闘に向けては、安倍晋三首相が2017年10月に「3%の賃上げ実現に期待する」と具体的な数字を挙げ、経済界に対し、これまで以上に思い切った賃上げを要請した形となりました。
これに対し、年明け1月に経団連が公表した「経営労働政策特別委員会報告」では、「『3%の賃金引き上げ』との社会的期待を意識しながら、自社の収益に見合った前向きな検討が望まれる」と明記しました。これは、春闘における経営側の指針となるものです。連合が求める2%のベアを含む4%程度の賃上げには及ばないものの、経営サイドもかなり前向きな姿勢を見せたといえます。年末から年始にかけては3~4%の賃上げを表明する企業も散見され、大きく報道されました。
こうした動きの背景には、企業収益の改善が挙げられます。財務省が3月1日に発表した2017年10~12月期の法人企業統計によると、全産業(資本金一千万円以上、金融機関を除く)の経常利益は、6四半期連続で前年同期を上回り、過去最高圏内で推移しています。企業の支払い能力を示す労働分配率(人件費÷付加価値)については、90年代初頭以来となる水準にまで低下しており、賃上げ余力のある企業は少なくないとみられます。
もっとも、エネルギー価格の上昇などを受けて、経常利益の伸びは前年比+0.9%と夏場にかけての2桁増から鈍化したほか、2018年に入り円高の進行もあり、収益環境に陰りがみられます。このため、春闘終盤に向けては、労使ともに賃上げに慎重な姿勢が広がりました。トランプ政権の誕生等で先行き不透明感が高まった前年春闘に比べると、足元の企業マインドの悪化は限定的であるものの、円高が収益を悪化させやすい自動車、電機などで労働側の要求額が軒並み前年並みにとどまり、満額回答で妥結しても、3%には届かない企業が多くなっています。
こうしたなかで、2018年の大手企業の賃上げ率は、昨年(厚生労働省ベース2.11%)を上回るものの、目標とする3%には届かない2.4%程度にとどまると見込まれます。
中小企業についても、大手同様、賃上げ率は昨年をやや上回る程度となりそうです。中小企業では、大手企業以上に人手不足が深刻化しており、賃上げ圧力が高まっています。また、円高による収益への悪影響が大手企業に比べると軽微であるといえます。もっとも、そもそもの企業収益の改善が大企業に比べると小幅なものにとどまっているうえ、エネルギーをはじめとする原材料高が収益環境を悪化させるなか、思い切った賃金引き上げに動ける企業は限られるのも事実です。
中小企業を対象とした集計を行っている経団連調査をみると、昨年の賃上げ率は、1.81%、金額では約4600円でした。このベースでいえば、2018年の賃上げ率は1.9%程度、金額で4800円程度になると予想されます。
提供:株式会社TKC(2018年4月)
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