Q 福利厚生の一環で企業型DCの導入を検討しています。検討にあたり制度改正の最新情報を教えてください。(物流機器メーカー)
<回答者>社会保険労務士 渡邊由佳
A 確定拠出年金(DC)は、加入者ごとに拠出された掛け金を加入者自らが運用し、その運用結果に基づいて給付額が決定される年金制度です。そのうち事業主が掛け金を拠出する企業型DCは、福利厚生の一環として多くの企業に利用されており、2021年3月末現在で3万9081社、約750万人もの加入者が利用する状況となっています。さらに22年になって確定拠出年金制度の法改正が行われ、企業側も従業員側もより柔軟な制度設計が可能になりました。
まず、これまで60~70歳までしか選択できなかった受給開始時期が、同年4月から75歳まで選択できるようになりました。また加入についても、複雑な要件を緩和し、同年5月から厚生年金の被保険者(70歳未満)であれば加入できるようになっています。そして最大の改正点が、同年10月から企業型DC加入者が個人型DC(iDeCo)に加入できる要件が大幅に緩和されたことです。
これまで企業型DCを実施している企業の従業員がiDeCoに加入するためには、労使合意に基づく規約の定めや事業主掛け金の上限引き下げなどが必要だったため、事実上ほぼ活用されていない制度でした。それが規約の定めや事業主掛け金の上限引き下げがなくても、原則として企業型DC加入者がiDeCoに加入できるようになったのです。
ただし、いくらでも掛け金を拠出できるかというとそうではなく、図表(『戦略経営者』2022年11月号 P48)のように全体の拠出限度額から事業主掛け金を控除した残りの額の範囲内で、月額2万円を限度に従業員自身が加入できるという形になっています。
今回の制度改正により、従業員の方が自らの選択により企業型DCにプラスしてiDeCoに加入することができるようになり、より柔軟な資産設計・運用が可能になりました。特に今の若い世代は老後の生活に不安を抱えており、投資に対しても積極的なことから、福利厚生制度としてアピールすることで人材確保につながる可能性は大いにあります。また既存の従業員に向けても「長く働くことで老後の資産を増やせる」という訴求もでき、人材の定着にもつながるでしょう。
すでに企業型DCを導入済みであれ、これから導入を検討している場合であれ、今回の改正に伴う注意点がいくつかあります。まず企業側の掛け金が、月の上限額の範囲内で各月拠出である必要があります。制度上、拠出自体は複数月や年単位でも可能なのですが、iDeCoを利用する場合は毎月の拠出でなければなりません。
また、マッチング拠出(企業側が毎月拠出する掛け金と同額を限度に従業員自身が上乗せして拠出できる制度)とiDeCoの併用はできません。すでにマッチング拠出を実施している企業の場合、従業員に周知し、iDeCoを利用する場合は従業員自身にマッチング拠出からの切り替え手続きを行なってもらう必要があります。従業員の資産形成を一層手助けできる今回の法改正を、ぜひ上手に活用していただきたいと思います。
提供:株式会社TKC(2022年11月)
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。