Q 長時間労働の削減、効率的な働き方など、いわゆる働き方改革に取り組んでいますが、成果がなかなか表れません。全社を巻き込んだ取り組みにするためのヒントがあれば教えてください。(化粧品卸売業)
<回答者>社会保険労務士 原田政昇
A 2019年4月から働き方改革関連法が順次施行されます。「働き方改革」では、これまでの労働環境を見直すと同時に、職場の意識改革も必要です。
雇用対策法の改正では、事業主に労働者の労働時間を短縮し、労働条件を改善すること、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら労働者の意欲、能力に応じた就業環境の整備に取り組むことが求められます。使用者からの年次有給休暇の時季指定義務では、有給休暇の取得が進み、一般社員の労働時間は減少するかもしれませんが、残業代の支払いを必要としない管理職の業務量が増加し、しわ寄せを受けることも考えられます。
会社と社員にとって、よりよい働き方を考えるにあたり、両者が一体となって働き方の現状を共有し、望ましい未来像を探求していくことで、会社の状況に即した働き方改革を進める必要があります。労働時間を短縮し、仕事の質を向上させるため、業務のムリ・ムラ・ムダを削減し、効率化を図ることが求められます。そのようななか、働き方改革を成功へ導くカギを握るのが、部下を持つマネジャー層です。
米・マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱している「組織の成功循環モデル」という理論があります。これは組織としての成功や成果といった「結果の質」を高めるためには、一見遠回りに思えるとしてもメンバー間の「関係の質」を高めることからはじめるのが重要であるという考え方です。
関係の質を高めるためには、相手の話をまず受け止め「そういう考え方もあるんだね」と否定せず、お互いを尊重し、相互理解を深めながら一緒に考えます。そして、関係の質が高まってくると、その過程でいろいろな気づきが生まれ、個人の「思考の質」が向上します。すると、自分の頭で考え、自発的に行動することが楽しくなるため「行動の質」も向上し、結果の質が高まります。よい結果が生まれると、メンバー間の信頼は深まり、関係の質が向上していくという循環が起こり、組織に持続的な成長をもたらします。
一方、結果の質をスタートにしてしまうと、目先の結果ばかりを追い求めるため、思うような成果が上がらない場合、組織内で言い訳や責任転嫁などの対立が生じ、方法論の押しつけや、選択肢の与えられない指示、命令が多くなったり、関係の質が低下していきます。さらに、やらされ感のある受け身の状態では、自ら考えることもやめてしまい、思考の質も低下。自発的な行動もなくなり、行動の質ひいては結果の質の低下をもたらします。
このように、関係の質の大切さを理解せず、結果の質だけを求めてしまうと、メンバーとの信頼関係が築けないばかりか、努力をしているにもかかわらずチーム、組織として結果を出せない状況に陥りかねません。働き方改革についても、同じことが言えるでしょう。改革を成功に導くため、まずは一番小さな組織単位から関係の質を大切にする組織づくりを目指したいものです。
提供:株式会社TKC(2019年3月)
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。