改正プロバイダ責任制限法の概要

Q 店舗でクレーム対応をしたところ、去り際「ネットに書いてやる」と言われたことがあります。ありもしないことを書かれたときのため、投稿者特定の方法を教えて下さい。(飲食店)

<回答者>弁護士 神田知宏

A 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限および発信者情報の開示に関する法律(プロバイダ責任制限法)が改正され、今年の秋に施行されます。

 改正法のポイントは、①「ログイン型投稿」への対応と、②「発信者情報開示命令事件」手続きの新設です。改正法により投稿者特定の簡易・迅速化が期待されます。

 ツイッターやインスタグラムのように、ログインして投稿するタイプのサイトでは、一般に、投稿時ではなくログイン時の通信記録が保存されています。そのため、従前のプロバイダ責任制限法では投稿者の特定に法的な問題がありました。そこで改正法では、新たに「特定発信者情報」概念を作り、ログイン時の通信記録からも、投稿者特定を法的に可能としました。

短期間でプロバイダを特定

 これまでのプロバイダ責任制限法では、投稿者特定には多くのケースで2回の裁判手続が必要でした。サイト管理者に対しIPアドレスを開示請求する手続きと、接続プロバイダに対し投稿者の住所・氏名を開示請求する手続きです。2つの手続をあわせると、投稿者特定までに6か月から9か月ほどかかり、迅速な被害回復は困難な状況でした。しかも、IPアドレス等に関する技術的知識が必要になることから、弁護士も含め一般の人にとって、ハードルの高い制度となっていました。これらの問題を解決すべく新設されたのが、「発信者情報開示命令事件」の手続きです(改8条、以下「新制度」)。サイト管理者に対するIPアドレスの開示命令申し立てからスタートする点は従来と変わりませんが(図の①※)、新制度では同時に「提供命令」の申し立てをします(改15条、②※)。これにより、とても短期間のうちに接続プロバイダの名称が判明します(③※)。

 接続プロバイダの名称が判明したあとは、当該接続プロバイダに対し、住所氏名の開示命令申し立てをします(④※)。新制度では、サイト管理者に対する申し立てと接続プロバイダに対する申し立ては併合されて一つの手続になるため、審理は一度で済みます。そして、裁判所の決定により、投稿者の情報が開示されます(⑧※)。発信者情報開示命令事件は訴訟手続きではないことから、訴訟よりも短期間で結論が出ると考えられています。

 また新制度では、IPアドレスの検索など、技術的な調査はサイト管理者と接続プロバイダだけが担当します(⑤※)。そのため、申立人は技術的調査の負担から解放されています。

 一般企業や個人事業主がネットで誹謗中傷の被害を受けたときの対応は①サイト管理者に削除請求するか②投稿者を特定のうえ投稿者に削除を求め、あわせて損害賠償請求をするか、どちらかの方法が考えられます。これまでは投稿者の特定に時間がかかっていたことから、②の方法では投稿者が特定されるまで削除請求できないのが問題となっていました。改正法施行後は、迅速な投稿者特定が期待できることから、②の方針にも合理性があると思われます。

※…『戦略経営者』2022年6月号P40図表参照

提供:株式会社TKC(2022年6月)

(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。 

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