Q 労災が適用された従業員に対し、その後の治療費などが無料になる制度があると聞きました。詳細について教えてください。(製造業)
<回答者>社会保険労務士 西巻充史
A アフターケア制度は、業務上や通勤中のけがや病気の療養後に治った労働者に対して、再発や後遺障害を防止するための制度です。業務上や通勤途上の病気やけがが治った後に、再発や後遺障害を防止するため、必要に応じ、診察、保健指導、検査が無料で受けられるようにすることで、被災労働者のその後の円滑な社会生活復帰を目的としています。ここにおける「治った」とは、完全に治癒した場合のみならず、今後治療しても改善できないような症状固定の場合も含まれます。
対象となるけがや病気は、厚生労働省のリーフレットやホームページで確認できますが、主なものとしては、脊髄損傷、頭頸部外傷、人工関節・人工骨頭置換等20種類あり、業務災害や通勤災害によるけがや病気が治った後、障害補償の対象となるような一定の障害が残った場合に限られます。
適用を受けるためには、対象者が、都道府県労働局や労働基準監督署に備え付けの健康管理手帳交付申請書に記入し、所属事業場を管轄する都道府県労働局長に申請する必要があります。申請は「治った」日の翌日から可能です。
申請期限は、対象となるけがや病気により異なるので確認が必要ですが、審査の結果申請が認められた場合、「アフターケア健康管理手帳」が交付され、労災保険指定医療機関で、診察、保険指導、処置、検査等を、一定の範囲内において無料で受けることができます。また、対象者の経済的負担を軽減するため、通院する距離によっては、アフターケア通院費支給申請書に領収書等を添付して、通院に関する費用の支給を受けることもできます。
アフターケア制度が受けられる期間は、対象となる病気やけがにより異なりますが、期間満了前に「健康管理手帳の有効期間満了のお知らせ」が届きます。更新の継続を希望する場合、手帳の期間満了日の1カ月前までに、再交付申請書に更新に関する診断書を添付して申請する必要があります。
アフターケア制度は、業務災害や通勤災害によって被災労働者に一定の障害が残った場合の社会復帰促進事業として位置づけられていますが、アフターケア制度以外にも、障害等級第1級から第14級に該当するような障害が残った場合、労災保険における障害補償年金が受給できる場合があります。
また、厚生年金加入中の労災事故であれば、社会保険における障害厚生年金の対象となり、労働に制限がかかるような障害が残った場合に、3級から1級の障害厚生年金が受けられる場合があります。労災保険における障害補償年金と厚生年金における障害厚生年金は併給できますが、労災保険における障害補償年金が減額されて支給されることになります。
業務災害や通勤災害を未然に防止する措置を取らなかったため、安全配慮義務違反で、高額な損害賠償請求される事案も見受けられます。万一労災事故が起こった場合でも、社会復帰の促進や生活補償のため、事業主は被災労働者の雇用を維持しながら、アフターケア制度、各種年金制度の活用に関する情報提供や手続きを行うことが重要です。
提供:株式会社TKC(2015年5月)
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。