ワクチン接種にかかわる労務上の注意点

Q 新型コロナウイルスのワクチンを接種した若手社員、中堅社員が増えてきました。接種した社員と接種しない社員への対応など、労務上注意する点はありますか。(製造業)

<回答者>社会保険労務士 川島勇樹

A ワクチン接種が社会的に進むにつれ中小企業も今後の対応をどうするか方針を明確化する必要に迫られてきました。考えるべき点は、従業員のワクチン接種についてどこまで支援するかです。ワクチン接種は予防接種法に基づき感染症のまん延防止のために行われます。同法では、市町村長が勧奨する対象者は「予防接種を受けるよう努めなければならない」と定められています。

 重要な点は、接種は努力義務であり、受けるか受けないかは本人の自由意思によるということです。アレルギー等の医学的な理由で接種できない人もいます。考え方や宗教の違いもあります。したがって、企業は従業員に対して接種を指示することはできず、行うとしても接種の奨励・支援にとどまることになります。

 自社の業種業態や従業員の意向も踏まえてのことですが、企業として接種を奨励する方針を取るのであれば、希望する従業員が支障なく接種できる環境づくりを行います。勤務日でも接種できるように接種日は特別休暇を付与したり、中抜け・休憩時間の延長を認めたりすることが考えられます。接種後は発熱や倦怠(けんたい)感が出る場合もあるので、少なくとも接種翌日までは休めるようにしたほうが良いでしょう。また、こういった支援を行う場合は、正社員と非正規従業員を差別することはできません。もちろん特別休暇付与等の措置は法令上の義務ではなく、企業が任意で決めるものです。シフト制の従業員が多い企業などにおいては難しい部分もあると思います。自社の実態に合わせて無理のない環境づくりを行いましょう。

 また接種済みであるかどうかの申告を従業員に命じることはできず、状況把握は本人の同意のもとで行う必要があります。特別休暇を付与した場合は間接的に把握可能ですが、どの従業員が接種済みであるか職場に公表するなどあってはなりません。接種していないことを理由にした解雇などの不利益な取り扱いは違法になります。接種しない者への排斥や嫌がらせなどハラスメントにつながる懸念もあります。接種状況を把握しても企業として活用の余地は少ないかもしれません。慎重に判断すべきところでしょう。

 接種は個人の任意ですから、副反応は私傷病と同じ扱いです。しかし、接種時の休暇付与等を行っている企業においては、副反応時も休める措置をセットでとるのが望ましいです。副反応が労災扱いになることは通常ありませんが、事実上接種を強要していたような実態があれば労災となり得るので注意したいところです。医療従事者等は個人の任意で接種したとは言い難い部分があるので副反応は労災になり得ます。

 その他、接種済みであることだけを理由にテレワークをとりやめるのは適切ではないでしょう。接種したから完全に安心ということはありませんし、テレワークには生産性向上などの本来の目的があると思います。また、「接種証明」が一般化した場合が気になります。わが国は慎重な姿勢を崩していませんが、諸外国ではさまざまに活用されているようです。是非はともかく、今後、企業における接種状況により経済活動に差が出る可能性もないとは言えないので、従業員の接種を支援しながら状況を注視していくことになるでしょう。

提供:株式会社TKC(2021年10月)

(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。 

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