短時間正社員制度を導入するには

Q 出産や介護による社員の離職に困っています。短時間正社員制度を導入して、定着率を上げるとともに、幅広く人材を集めたいと考えています。留意点を教えてください。(飲食業)

<回答者>社会保険労務士 西巻充史

A「正社員はフルタイム(1日8時間、週5日)勤務であるべき」と考える中小企業経営者は、まだまだ多いようです。しかし、働き方に多様性が求められる時代となり、短時間正社員制度を導入し、より柔軟な採用戦略を実践する企業が増えつつあります。

 短時間正社員とはフルタイム正社員と比較して、1週間の所定労働時間が短い正規型社員のことです。該当するための要件には、
●期間の定めのない労働契約を締結している。
●時間あたりの基本給および賞与、退職金等の算定方法が、同種のフルタイム正社員と同等。
の2つがあります。

 この制度は「育児・介護と仕事を両立させたい」「決まった日時だけ働きたい」「定年後も働きたい」など、さまざまな労働者のニーズに応えるためのもので、企業だけでなく労働者や社会にとっても大きなメリットが期待できます。

 企業にとってこの制度の最大のメリットは、意欲・能力の高い人材を無理なく確保できることです。子育てや介護、体力的問題などの理由で、フルタイム正社員として働くことのできない人材を、時間的制約の緩和ですくい上げることが可能になるのです。また、勤務実績が5年を超える有期契約の労働者を無期契約に転換する、いわゆる「無期転換ルール」に対応するために、この制度を活用することも可能です。もちろん、高年齢者のモチベーション維持、あるいはパート労働者などを短時間正社員にすることで、労働意欲を喚起し、生産性の向上を期待することもできるでしょう。

導入目的を明確にする

 企業が短時間正社員制度を活用しようとする場合、場当たり的に導入したのでは、中長期的な効果は望めません。

 まずは、導入する目的を明確にしてください。社員のニーズを聞き取り調査した上で将来的な人員構成・人材戦略を定め、そのなかに短時間正社員制度を当てはめていくのです。

 次に、短時間正社員に期待する労働時間、適用期間、職務内容を決めます。たとえば、育児期間に入ったフルタイム正社員の一時的な短時間正社員化を行う場合、フルタイムへの復帰を念頭に置いた職務内容の設定が必要になります。パートタイム労働者や新入社員にこの制度を適用する場合にも、それぞれの事情に合った調整が求められるでしょう。

 さらに、人事評価の仕方を検討します。フルタイム正社員と比較して労働時間が減少するので量的な目標数値を減らす必要が出てくる場合もあるでしょうが、質的な目標は変えないというのが原則です。能力評価や行動評価は、フルタイム正社員と同じ評価基準を使用してください。基本給は労働時間に比例して減額します。賞与は、支給月数の係数など、フルタイム正社員と同等の基準で支給することが原則となります。

 そして最後に、短時間正社員の定義づけ、対象となる従業員の範囲、労働時間、賃金等の詳細を就業規則に盛り込み、従業員に周知します。

 こうした手順を踏んだ上で、短時間正社員制度の導入となるわけですが、さらに詳しくお知りになりたい方は厚生労働省の短時間正社員制度の専門サイトがあります。下のサイトから確認してみてください。

提供:株式会社TKC(2021年9月)

(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。 

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