Q 社有車に必要なガソリンの価格が毎月上昇して経費を圧迫しています。今後も石油製品の上昇は続くのでしょうか。(卸売業)
<回答者>独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 首席エコノミスト 野神隆之
A 2022年3月8日に原油(米国テキサス州西部およびニューメキシコ州を中心とする地域で生産される原油であるウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI))価格の終値は1バレル(約159リットル)当たり123.70ドルと、2008年8月1日以来約13年半ぶりの高水準に到達しました。新型コロナウイルス感染拡大による世界経済減速と石油需要の鈍化観測等により20年前半に1バレル当たりマイナス37.63ドル(売り手がお金を支払って買い手に引き取ってもらう価格水準)に到達した原油価格は、その後約2年間上昇傾向となり、22年に入ってからは上昇ペースが加速しました。では、その背景には何があったのでしょうか。
石油に限らず財の価格は需要と供給のバランスで決まりますが、時として足元の需給バランスのみならず、将来的な需給バランスに対する市場関係者の観測が価格形成に影響する場合があります。20年以降で見てみれば、新型コロナウイルスワクチン接種が開始されたことから、感染の沈静化と経済および石油需要回復による石油需給バランス引き締まり期待が市場で強まったことが、原油相場を押し上げました。そしてその後世界各国が実際に景気刺激策を実施し、経済が成長を取り戻すとともに石油需要も復活してきました。
それとともに石油需給バランスを示す指標として用いられる先進国(OECD諸国)の石油在庫も21年後半には平年在庫幅(過去5年幅)を下回るようになるなど、石油需給の引き締まりを示すようになりました。このような流れにあわせ、原油価格は上昇を続け、21年末には75ドルに到達しました。さらにその後要因として現れたのが、ウクライナ問題です。ウクライナ自体の石油生産量は日量5.4万バレル(21年)と世界全体の1%もなく、世界石油需給に影響を与える大産油国とは言えないのですが、22年2月24日にウクライナに対し事実上の侵攻を開始したロシアは日量1,000万バレル(同)を超過する石油を生産するなど、世界三大産油国に数えられるほどの国です。
これに対しウクライナを支援する欧米諸国等が金融面等でロシアに制裁を加えました。ロシアが対抗措置として石油供給を削減する結果、欧米諸国等で石油不足が発生するかもしれないとの不安感が市場で拡大するとともに、ウクライナに侵攻するロシアと取引することにより西側諸国の石油会社が評判を落とすことを心配して、それらの企業がロシア産の石油購入を敬遠し始めました。これらによる石油需給バランス引き締まり観測が市場で強まった結果、原油相場を押し上げる格好となっています。
ウクライナとロシアとの間では断続的に停戦協議が行われていますが、ロシアのウクライナへの侵攻は、少なくとも現時点では終結の兆しが見えず、事態もかなり流動的で、市場関係者の中には原油価格が今後も乱高下し続ける可能性があると見る向きもあります。日本を含む世界経済に大きな影響を与える要素の一つとして、石油市場の動向に注目していく必要があるでしょう。
提供:株式会社TKC(2022年5月)
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