Q 消費財の値上げが相次ぎ経営環境は厳しいですが、社員のモチベーションをあげるために賃上げを考えています。今年の中小企業の賃上げ相場を教えてください。(スーパー経営)
<回答者>日本総合研究所調査部
主任研究員 小方尚子
A 2015年春季労使交渉(春闘)では、賃上げに向けた経営サイドの姿勢がかなり前向きになったことが注目されます。経団連は既に昨年の春闘で、賃上げという「選択肢もあり得る」という表現で6年ぶりに賃上げを容認する姿勢を打ち出していましたが、今春闘ではさらに踏み込んで、好業績の企業は賃金の引き上げを「前向きに検討することが強く期待される」としています。
こうした動きの背景には、企業収益の改善が挙げられます。財務省が発表した2014年10~12月期の法人企業統計によると、全産業(資本金1000万円以上、金融機関を除く)の経常利益は、前年比+11.6%と12四半期連続で前年同期を上回り、過去最高を記録しました。円安による輸出や海外事業収益の増加に加え、原油安によるコスト減少が収益増に寄与しました。こうしたなか、企業の支払い能力を示す労働分配率(人件費÷付加価値)は、ほぼリーマン・ショック前の水準にまで低下してきており、賃上げ余力のある企業が増えています。
さらに政府からの賃上げ要請も後押ししています。2年目を迎えた政労使会議でまとめられた合意文書では、今春闘での賃上げについて「政府の環境整備の取り組みの下、経済界は賃金の引き上げに向けた最大限の努力を図る」とされ、「企業収益の拡大を賃金上昇につなげる」とした昨年よりも強い表現となっています。
一方、労働組合側も賃上げ要請を強めており、連合は2015年の春闘基本方針において「ベア+2%以上」と前年の「+1%以上」を大幅に上回る要求を掲げました。これを受けて、自動車総連や電機連合などでは、昨年を上回るベア要求が相次いでいます。
このように、経営環境の改善が続き、労使ともに賃上げ機運が高まるなか、2015年の大手企業の賃上げ率は、昨年(厚生労働省ベース2.19%)を上回る2.3%に高まると見込まれます。
以上を踏まえて、中小企業の賃上げ動向を展望してみましょう。
まず、前提となる企業収益動向についてみると、徐々に持ち直しているものの、大手企業に比べて立ち遅れ感があることは否めません。中小企業では、海外展開による円安メリットを得る企業が限られる一方、円安がコスト高に直結する内需型企業が多いことが一因です。労働分配率の動きをみても、大企業に比べて改善が遅れており、賃上げ幅拡大に慎重な企業が多くなる見込みです。
経団連調査の中小企業ベースの賃上げ率は、昨年は1.76%、額にして約4400円でした。このベースでいえば、2015年の賃上げ率は1.8%強、金額で4600円程度になると予想されます。
このように、中小企業の賃上げ相場は、企業業績を反映し大企業に比べ緩やかな上昇にとどまると見込まれます。もっとも、中長期的にみると賃金上昇圧力は一段と高まっていくことが予想されます。デフレ脱却に伴う労働者の賃上げ要請が強まっていくとみられるほか、非製造業を中心に人手不足感が急速に強まっているためです。このため、事業構造の見直しによる収益体質の強化や省力化投資など、将来的な賃金上昇圧力への対応が急がれるといえましょう。
提供:株式会社TKC(2015年4月)
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。