フリーランス保護法が経営におよぼす影響

Q 業務の一部をフリーランスのデザイナーに委託しています。フリーランスとの取引契約にまつわる法律が成立したそうですが、詳細を教えてください。(金物小売業)

<回答者>特定社会保険労務士 小岩和男

A 近年、労働形態の多様化にともない「フリーランス」という働き方が普及しています。この働き方は、発注事業者と交渉力や情報収集力で格差が生じ、取引上弱い立場に置かれやすいため、報酬不払いや支払い遅延、その他ハラスメント等の就業環境に関するトラブル等が生じている実態があります。こうした状況を改善するため、2023年5月12日に「フリーランス保護法」(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)が公布されました(公布日から起算して1年6カ月内に施行)。この法律により、フリーランスに対する取引の適正化および就業環境の整備が図られることとなります。

 同法の対象は、以下の両者間の業務委託(事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託すること)取引です。

フリーランス(特定受託事業者)…従業員を使用しないで1人の「個人」として業務委託を受ける者
発注事業者(特定業務委託事業者)…従業員を使用して「組織」として業務委託を行う者

7つの行為を禁じる

 まず、取引の適正化について述べます。発注事業者は、フリーランスに対して業務委託をした場合、給付の内容、報酬の額等を書面または、電磁的方法により明示しなければなりません。なお、従業員を使用していない事業者が業務委託を行うときも同様です。

 また、発注事業者は、発注した物品等を受領した日から60日以内の報酬支払期日を設定し、支払わなければなりません(再委託の場合には、発注元から支払いを受ける期日から30日以内)。

 さらに、フリーランスとの業務委託(政令で定める期間以上のもの)に際して、以下の行為を禁じています。

① フリーランスの責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
② フリーランスの責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
③ フリーランスの責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
④ 通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑤ 正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
⑥ 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
⑦ フリーランスの責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること

 次に、就業環境の整備についてですが、発注事業者は、広告等によりフリーランスの募集情報を提供するときは、虚偽の表示等をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければなりません。あわせて、フリーランスが育児介護等と両立して継続的業務委託(政令で定める期間以上の期間行う業務委託)に係る業務を行えるよう、その申し出に応じて必要な配慮をする必要があります。

 フリーランスに対するハラスメント行為に係る相談対応等、必要な体制整備等の措置も講じなければなりません。なお、発注事業者が継続的業務委託を中途解除する場合等には、原則として中途解除日等の30日前までに、特定受託事業者に対し予告することが求められます。

 義務化されたルールの違反行為を受けたフリーランスは、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の窓口に申告することができます。行政機関は発注事業者に対し、助言、指導、報告徴収・立入検査、勧告、公表、命令をとります。また、命令違反および検査拒否等に対しては、50万円以下の罰金が処せられます。取引関係でトラブルが生じないよう、これらの内容を踏まえた契約書をきちんと取り交わしておきましょう。 

提供:株式会社TKC(2023年8月)

(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。 

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