SOGIハラスメントを防ぐには

Q 今4月にLGBTの社員が入社します。快適に働いてもらうためには職場でどのような配慮が求められるでしょうか。(運送業)

<回答者>社会保険労務士 原田政昇

A 近年では、「LGBT」(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)という言葉の意味を認識している人が7割にのぼるなど、性の多様性は広く認知されつつあります。日本で暮らす人々の8.9%(約11人に1人)がLGBTに該当するとの調査結果もあり、こうした現状は「周りにいない」のではなく、「気づいていないだけ」といえるでしょう。昨年6月、パワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が施行され、昨今耳にするようになったのが「SOGI(ソジ)ハラスメント」(以下、SOGIハラ)という言葉です。

 人が持つ性のあり方をセクシュアリティーといいますが、従来の男女という性別だけでは現実における多様な性をとらえきれないため、SOGIという概念が生まれました。SOGIとは、性的指向(セクシャル・オリエンテーション)と性自認(ジェンダー・アイデンティティー)を組み合わせた言葉です。性的指向は好きになる相手の性を指し、性自認は自分自身の性別をどう認識するか、いわゆる心の性を意味します。

 この性的指向や性自認にまつわるハラスメントをSOGIハラとよび、●差別的な呼称や笑いのネタにする●暴力をふるったり、無視したりする●望まない性による生活を強要する●不当に異動を命じたり、解雇したりする、などの言動が当てはまります。

 たとえば、職場で2人の男性がふざけあっているとき「おまえら、ホモか!男同士気持ち悪いなー」とその光景を目にした同僚が冷やかし、笑いが起こったとします。もし、ふざけていた男性のひとりがゲイだった場合、ネタにされたことや自身の性に対するあり方を「気持ち悪い」と否定されたことにより、心に深刻なキズを負う可能性があります。こうした何げない言動によって、誰もがSOGIハラの加害者となりうる点を自覚し、日ごろのふるまいに注意を払うようにしましょう。

アウティングは厳禁

 また、SOGIハラのひとつとして「アウティング」が挙げられます。アウティングとは、SOGIについて本人の同意を得ることなく、周囲に伝えてしまうことを指します。2015年4月、ゲイの大学院生がアウティングをきっかけに転落死する事件が起こりました。アウティングはプライバシーの侵害であると同時に、いのちにかかわる深刻なハラスメントにもなりえます。

 LGBTであることを職場でおおやけにしている人は、4.3%にとどまるという調査結果もあり、カミングアウトするのは容易ではありません。社員からSOGIに関する相談を受けた場合、本人の同意なく第三者に伝えてしまうことがないよう注意を払い、仮に同意を得た場合であっても、情報公開の範囲を本人に確認し、徹底する必要があります。

 自身はLGBTではないものの、多様な性のあり方に理解を持つ支援者や応援者のことを「ally(アライ)」といいます。アライである社員をバッジやシールで可視化して、相談相手を明確にしている例もあります。SOGIについて相談する側とされる側の体制を整えるとともに、アウティングは重大な結果をもたらすハラスメントであるという点を、周知徹底することが大切です。

提供:株式会社TKC(2021年3月)

(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。 

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