著作物の「写り込み」ルールの注意点

Q 会社ホームページで採用応募者向けに動画を公開していますが、店内の商品や音楽が入ってしまっています。消音やモザイク処理をしたほうがよいのでしょうか。(雑貨店運営)

<回答者>弁護士 関真也

A メインの被写体とは別の事物・音である他人の著作物が写り込んだ動画を制作し、ホームページに掲載するなどして利用することは、著作権者の許諾を得ない限り、著作権侵害として差止め、損害賠償請求等の対象となるのが原則です。

 しかし、①事物・音を複製して動画等のコンテンツを制作し、または複製を伴うことなく伝達する行為(複製伝達行為)を行うに当たり、②メインの被写体となる事物・音に付随してコンテンツに写り込む事物・音の著作物(付随対象著作物)は、③そのコンテンツにおいて軽微な構成部分にとどまる場合には、④正当な範囲内において、方法を問わず利用できます。ただし、著作権者の利益を不当に害しないことが条件です。

 この規定は令和2年に改正され、同年10月1日から施行されています(『戦略経営者』2021年1月号39頁図表参照)。改正前は、写真の撮影、録音または録画に当たって写り込む場合に限って適法とされていましたが、改正後は、生放送、生配信、スクリーンショット、模写、CG化など、より幅広く適法に行えるようになりました。また、改正前は、メインの被写体から分離することが困難であるため付随して写り込む場合に限って適法とされていましたが、改正後は、ある事物・音が、その利用を主たる目的とせず、メインの被写体に付随して写り込む場合であれば適法になり得るとされました。例えば、従来は「家族の思い出を残すため、子供にぬいぐるみを抱かせて写真を撮影する場合など、自ら意図的に著作物を設置して撮影等を行うような場合」は、分離困難とはいえず違法とされていましたが、改正後は適法になる可能性があります。

「正当な範囲内」と言えない例としては、既にライセンス市場が形成されている場合や、自ら利益を得る目的で他人の著作物を意図的に利用する場合などがあります。

 ご質問のケースのように、普段の店内の様子を背景に、社員やその発言をメインの被写体として撮影したときにたまたま商品や音楽が写り込んだような場合は、消音、モザイク処理などをしなくとも適法とされる可能性があるでしょう。他方、視聴数を増やす目的で人気商品を目立つように配置し、長時間撮影した場合や、BGMといえるほど大きな音で長時間音楽を流したり、演出意図をもってその音楽が流れているタイミングを狙って収録したりしたような場合には、「軽微」または「正当な範囲内」とはいえず、著作権侵害となる場合があるので注意が必要です。

 なお、実用的な商品のデザインは、裁判例上、著作物として保護されにくい傾向にあります。また、写り方が不鮮明すぎてどの商品、楽曲等であるか判別できないような場合には、著作権侵害となりません。したがって、写り込む事物・音がそもそも著作物であるか、また、その収録が「複製」に当たるかなどを総合的に見て判断することが大事です。

提供:株式会社TKC(2021年1月)

(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。 

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