事業承継時に経営者保証が不要になる新制度

Q 親族への事業承継を検討しています。経営者保証が悩みの種ですが、承継時に個人保証を外せる制度が新設されたと聞きました。詳細について教えてください。(建築材料卸売業)

<回答者>中小機構事業承継 コーディネーター 大山雅己

A 2025年までに70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人になると見込まれます。その約半数において後継者が未定で、残りの半数においても後継者がいても事業を次代に引き継ぐ準備ができていない状況です。いまや事業承継は、個々の事業者の課題であるだけでなく、製品・商品・サービスを生み出すバリューチェーンの各プロセスを通じてつながり合う事業者全体に影響が及び、地域社会や産業という面的な課題に変化しています。

 事業承継の課題には税務や法務等の課題と事業そのものの課題があります。前者は顧問税理士等の専門知見を活用、後者は現経営者と後継者が一緒になって自社の強みや魅力の源泉、知的資産(財務諸表に表れにくい経営資源)を振り返り、認識共有を図る取り組みが欠かせません。

 事業運営に欠かせない事業資金の調達において経営者の多くが個人保証を行っていますが、それが後継者に承継をためらわせる原因になっていることが少なくありません。個人保証が重荷になり個々の事業者の事業承継が進まないと、つながり合う地域社会のしくみや産業全体に影響が及びます。

経営改善の取り組みを共有

 さて、ご質問にお答えしましょう。後継者確保のネックとなっている個人保証については、金融機関と中小企業の双方の取り組みを促す施策が打ち出されています。

 その一つが「事業承継に焦点を当てた経営者保証ガイドラインの特則」であり、新旧経営者からの二重保証徴求を求めず、経営者保証の解除に向けた取り組みを促すものです。

 そしてもう一つが一定要件のもと経営者保証を不要とする信用保証協会による「事業承継特別保証」という新たな制度です。

 経営者保証解除に向けた取り組みを支援してくれるのは、全国47都道府県の事業承継ネットワーク事務局に設置された経営者保証コーディネーターで、情報の整理や見える化、要件チェックなどの支援を受けることができます。具体的には、経営者保証ガイドラインの3要件(①法人と経営者との関係の明確な区分・分離、②財務基盤の強化、③財務状況の正確な把握、情報開示等による経営の透明性確保)の充足状況の確認や経営者保証解除に向けた中小企業と金融機関との「目線合わせ」の支援を行います。

 保証が解除されない場合には、3要件充足に向けた事業の磨き上げや改善計画策定の助言を受けることができます。また、保証解除の代替策として「事業承継特別保証」等の活用検討を図ります。

 現経営者と後継者が一緒に自社の事業を振り返り、事業の流れの各プロセスにおける特徴や工夫等を維持・改善し、プロセスを強く太くする取り組みが、後継者が経営力を発揮する基盤になります。資金の使われ方や効果が明確になると後継者の不安が軽減、解消し、経営改善に向けた具体的に取り組むべき事柄も見えてきます。こうした取り組みを見える化し、金融機関と共有することが経営者保証の解除や経営者保証を不要とする資金調達につながります。

提供:株式会社TKC(2021年1月)

(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。 

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