2017年中小企業冬季賞与の相場は

Q 景気拡大が戦後2番目の長さになったとの実感は薄いですが、今冬も年末賞与を支給したいと考えています。中小企業の相場を教えてください。(理容業)      

<回答者>日本総合研究所調査部 主任研究員 小方尚子

A まず、賞与の多寡を左右する景気と企業業績の動向をみておきましょう。

 2017年には、14年春以降の景気弱含みの基調が薄れ、輸出や消費が持ち直す動きがみられました。まず、16年秋口以降の円安や海外の景気回復を背景に、輸出の増勢が強まりました。欧州各国で相次いだ国政選挙では、保護主義的な動きに一定の歯止めがかかる結果となり、海外経済への先行き懸念が和らぐこととなりました。また、個人消費も乗用車などの耐久消費財で、09年以降の購入支援策や消費増税前の駆け込み需要の反動減が一巡したほか、株高に伴う資産効果もあり、回復基調が続きました。

 このように景気にやや明るさが広がる中で、企業業績も改善しました。財務省の「法人企業統計調査」によれば、17年1~3月期、4~6月期の全産業(資本金1000万円以上、金融機関を除く)の経常利益は、それぞれ前年比+26.6%、+22.6%の増益となりました。とりわけ製造業は、同+70.3%、+46.4%と大幅増益でした。非製造業も同+10.7%、+12.0%と卸・小売業などに牽引(けんいん)され好調でした。

 もっとも、こうした好業績の一方で、賃金が上昇する動きは限定的です。むしろ17年には、13年からの改善幅拡大の動きが一服しています。

 これは、賃金はいわゆる遅行指標で受注、生産など経済のさまざまな動きを後から追いかけて変動する傾向があるためです。実際、17年の春季賃金交渉の際には、16年秋口までの円高の業績への悪影響や、海外経済の不透明感への懸念が強く、ベースアップを前年並みにとどめたり、ベアの維持を優先して賞与ファンドは前年比マイナスで決着したりする例が相次ぎました。17年度の賃金には、16年度の景気の弱さの影響が残った形です。

 このため、17年末賞与についても、平均では前年比+0.8%と夏季の同+0.4%に続き小幅な増加にとどまる見通しです。

雇用維持策の要素も

 もっとも、企業規模別にみると、中小企業の上昇幅は大手企業より大きくなる傾向がみられます。

 これは一つには、中小企業の賞与が大企業よりも、支給時期直前の収益状況を反映しやすい傾向があるためです。大企業では全体の8割弱の企業が年間の賞与ファンドを夏前に決定する「夏冬方式」をとっています。このため、同じ年度内の夏季・冬季の賞与の伸び率が同様になる傾向があります。17年夏季賞与は、企業規模500人以上の企業に限ると、前年比▲2.8%と減少しました。これに対し、同5~29人の企業では、足元の景気回復を反映して同+2.0%と増加しました。

 さらに、大企業以上に人手不足感・人材流出リスクが強いなかで、賃上げ圧力が高まっています。

 経済産業省が6月に実施した中小企業へのアンケート調査によると、正社員の賃金を引き上げた企業は、16年度に全体の59.0%であったのに対し、17年度には、66.1%に増えています。その理由としては、「人材の採用・従業員の引き止めの必要性」が49.2%と、「業績の回復・向上」の34.3%を上回っています。また引き上げ方法としては、「月例給与の引き上げ」が92.0%、「賞与・一時金の増額」が24.9%となっています。賞与の増額を引き上げ方法に選んでいない企業でも、月例給が賞与算定の基本となるため、賞与の伸び率自体には、月例給の伸びが反映されるのが一般的です。

 以上から今冬の中小企業の賞与伸び率は、前年比+1.5~2%程度になると予想されます。

提供:株式会社TKC(2017年12月)

(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。

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