「キャリアアップ助成金」の活用法

Q 非正規社員がなかなか定着してくれません。そこで「キャリアアップ助成金」を活用して正社員化・処遇改善を行いたいと考えています。詳細を教えてください。(システム開発業)

<回答者>社会保険労務士 西巻充史

A 先頃成立した「働き方改革法案」では、「雇用形態に関わらない公正な待遇の確保」が掲げられています。正規雇用と非正規雇用の不合理な待遇格差をなくして、多様な働き方を選択できるような方向性が打ち出されているのです。これを実現するには「キャリアアップ助成金」の活用が有効です。

 「キャリアアップ助成金」とは、非正規雇用労働者と呼ばれる有期契約労働者・短時間労働者・派遣労働者を企業内でキャリアアップさせることによって、正規社員化・処遇改善に取り組む事業主に助成金を支給する制度です。

 キャリアアップ助成金を受給するためには、雇用保険適用事業場ごとにキャリアアップ管理者を配置し、労働組合等の意見を聴いて、キャリアアップ計画を策定し、管轄労働局長の認定を受けることが前提となります。

 全部で7コースありますが、最もよく利用されているのが、「正社員化コース」です。正社員化コースの場合、キャリアアップ計画認定の前後を問いませんが、就業規則等に「試験等の手続き、対象者の要件、転換実施時期」を規定する必要があります。キャリアアップ計画認定後、就業規則等に基づいて雇い入れ3年未満で通算6カ月以上の有期契約労働者等に試験等を実施し、正社員等へ転換します。転換後の賃金6カ月分が転換前6カ月の賃金と比較して5%増額、転換後6カ月分の賃金を支給した日の翌日から2カ月以内に申請することにより、1人につき中小企業の場合最大57万円、一定の生産性向上が見られた場合には最大72万円支給され、1事業年度20人まで申請できます。

 これ以外にも有期契約労働者等に「法定外の健康診断制度」を就業規則等に規定し、延べ4人以上に実施した場合に支給される「健康診断制度コース」、有期契約労働者等の基本給の賃金規定等を2%以上増額改定・昇給させた場合の「賃金規定等改定コース」、就業規則等に正規雇用労働者と共通の職務に応じた賃金規定等を新たに規定・適用した場合の「賃金規定等共通化コース」、有期契約労働者と正規労働者とに共通の諸手当を新たに設定・適用した場合の「諸手当制度共通化コース」があります。

 また、社会保険が適用されていない短時間労働者がいる場合、労使間の合意に基づき有期契約労働者に社会保険適用を拡大し、新たに被保険者として基本給を増額した場合の「選択的適用拡大導入時処遇改善コース」、週の所定労働時間を収入が減らないように延長し、新たに社会保険を適用し、賃金規定等改定コースまたは選択的適用拡大導入時処遇改善コースを実施した場合の「短時間労働者労働時間延長コース」があります。

 少子高齢化に伴い、労働力不足が顕著となっています。働き方改革のなかで、労働基準法が改正され、5日間の有給休暇取得の義務化、長時間労働是正のための規制強化はもちろん、2023年から中小企業も60時間超の時間外労働には、大企業と同様の割増賃金率が適用されます。非正規労働者の有期契約の更新を繰り返しても5年を超える場合は無期雇用に転換しなければなりません。今後、優秀な人材を確保するために、キャリアアップ助成金の活用を考えてみてはいかがでしょうか。

提供:株式会社TKC(2018年12月) 

(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。 

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