Q 先日、退職代行サービス運営会社社長が弁護士法違反の容疑で逮捕されたと報じられました。どのような行為が弁護士法違反として疑われているのでしょうか。(経営コンサルタント業)
<回答者>弁護士 得重貴史
A 近年、退職代行サービスを利用して、会社への退職意思の伝達や条件調整を行う事例が増加しています。一方で、こうしたサービスが弁護士法違反、特に「非弁行為」に該当し得るのではないかという議論も活発化しています。実際、退職代行事業者の運営方法が問題視され、弁護士法72条との関連で捜査や調査の対象となった事案も報道されています。
前提として、退職代行サービスそのもの、すなわち依頼者本人の退職意思を勤務先に伝える行為については、意思伝達にとどまるかぎり、直ちに弁護士法違反となるわけではないとされています。しかし、退職の場面では、未払い残業代の請求、有給休暇の消化、退職日や退職理由をめぐる調整など、法律的判断や交渉を要する問題が併存することが少なくありません。このような点に踏み込むか否かが、適法性を判断する重要な分岐点となります。
同法72条は、弁護士または弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で法律事件に関して代理、交渉、和解その他の法律事務を取り扱い、またはその周旋を業とすることを禁止しています。
東京弁護士会が公表している非弁行為に関するコラム(https://www.toben.or.jp/know/iinkai/hiben/fyi/column/post_3.html)では、具体例を元にこの規定の趣旨が説明されています。たとえば、退職に伴って未払い残業代の支払いを会社に求め、その結果として金銭の支払いが実現した場合、残業代の有無や金額は、労働基準法等の法令解釈を前提とする法律問題であり、これを代理して交渉する行為は法律事務に該当する可能性が高いとされています。
また、退職代行事業者が弁護士資格を有しないにもかかわらず、利用者の個別事情を踏まえた法的評価を行ったり、会社側との条件交渉を主導したりする場合、非弁行為に該当するリスクは一層高まります。さらに、弁護士を紹介する形を取りつつ、紹介料や手数料を受領する行為についても、法律事務の周旋として、弁護士法違反に該当する可能性がある点が指摘されています。
弁護士法72条違反との関係で別途注目されているのは、AI(人工知能)を用いたリーガルチェック(※1)です。
2023年8月、 法務省大臣官房司法法制部は、同法72条の「報酬」「事件性」「鑑定該当性」の3点ともに当てはまる場合には、弁護士法違反となる可能性が高いことを指摘しています。リーガルチェックにおいて一番大きな要件となるのは事件性です。同部では原則、通常の業務に伴う契約の締結については、事件性の要件を満たさず、同法72条に反しないとの見解を示しています。
ただ、事件性は個別具体的な事情により変わるため、不安な場合は法律の専門家に問い合わせてください。もっとも、最高裁判例は必ずしも具体的な事件性を求めていないと考えられるものもあり(※2)、事件性該当性については慎重な判断が必要と思われます。
さて、退職代行サービスは心理的負担を軽減し、退職の意思を伝えやすくするという実務的な利点を有していることは否定できません。しかし、退職に伴い法的紛争や金銭請求が生じる場合には、同法72条により、弁護士による対応が不可欠です。退職代行事業者が対応できる範囲と、弁護士に依頼すべき範囲を正しく理解し、適切な専門家に相談することが法的トラブルを回避するうえで重要です。
※1 契約書等が法令や判例に違反していないか、不利益な条項がないか精査する作業
※2 最高裁2010年7月20日判決
提供:株式会社TKC(2026年3月)
(注) 当Q&Aの掲載内容は、個別の質問に対する回答であり、株式会社TKCは当Q&Aを参考にして発生した不利益や問題について何ら責任を負うものではありません。